
ドバイ不動産契約と地政学的リスク:「不可抗力」を理由とした契約解除は可能か?
はじめに
ドバイの不動産市場は安定性を保っていますが、周辺地域の情勢不安を背景に、オフプラン物件(未完成物件)の購入契約を解除できるのか、という疑問を持つ購入者が増えています。特に、契約の際に定められる「不可抗力(Force Majeure)」条項を適用できるかどうかが焦点となります。本記事では、UAEの法律専門家の見解を基に、この問題について初心者にも分かりやすく解説します。
不可抗力(Force Majeure)とは?
まず、「不可抗力」という言葉の意味を理解しましょう。これは、契約を結んだ当事者の誰もがコントロールできない、予測不可能な事態が発生し、契約内容の履行が不可能になった場合に、その責任を免除されるという法的な概念です。例えば、大規模な自然災害や戦争などがこれに該当します。
UAEの法律における不可抗力の適用条件
UAEの法律でも不可抗力の概念は認められていますが、その適用には非常に厳しい条件が定められています。専門家によると、ある出来事が不可抗力と見なされるためには、以下の全ての条件を満たす必要があります。
- 例外的かつ異常な出来事であること:通常の範囲を大きく超えた事態でなければなりません。
- 契約時に予測不可能であったこと:契約を結んだ時点では、その事態の発生を予見できなかったことが求められます。
- 回避不可能であること:当事者の努力では、その事態の発生や影響を避けることができなかった場合です。
- 契約履行の不能との直接的な因果関係:その出来事が原因で、契約の義務を果たすことが「不可能」になったことを証明する必要があります。
重要なのは、単に契約の履行が「困難になった」あるいは「経済的に不利になった」という理由だけでは、不可抗力とは認められないという点です。
現在の地域情勢は不可抗力に該当するのか?
法律専門家は、現在の地域情勢を理由にオフプラン物件の売買契約で不可抗力を主張することは、現時点では認められないとの見解で一致しています。
BSA LAWのパートナーであるBassel Boutros氏は、「UAEでの日常生活は通常通り続いており、不動産市場に重大な悪影響は出ていない」と指摘しています。ドバイの裁判所は個別の案件ごとに証拠に基づいて判断しますが、現状では契約履行が不可能になったと証明することは困難です。
過去の例として、新型コロナウイルスのパンデミックの際には、2021年の閣僚決議No.5によって特定の期間が「緊急金融危機」と公式に指定されました。しかし、現在の地域情勢に関しては、このような公式な措置は取られていません。
不動産購入者が知っておくべきこと
Al Tamimi & Co.のパートナーであるAndrew Thomson氏は、不可抗力の主張を成功させるのは難しいと結論付けています。購入を検討している方や、既に契約を結んでいる方は、以下の点を心に留めておくべきです。
- 契約書の詳細な確認:契約を締結する前、あるいは何らかの行動を起こす前に、契約書に含まれる不可抗力に関する条項を注意深く確認してください。
- 条件と制限の理解:不可抗力条項には、多くの場合、重要な条件や制限が付随しています。その内容を正確に理解することが不可欠です。
専門家への相談が増えていることからも、多くの購入者が自身の法的な選択肢について理解を深めようとしていることがうかがえます。
まとめ
ドバイの不動産市場は、地域情勢の中でも安定を維持しています。UAEの法律において不可抗力は認められた概念であるものの、その適用条件は極めて厳格です。現在の状況下で、地域情勢を理由に不動産契約を一方的に解除することは、法的に困難であると言えます。不動産購入を検討する際は、契約内容を十分に理解し、必要であれば専門家のアドバイスを求めることが重要です。
参考記事
- Khaleej Times (2026年4月21日公開): Dubai's real estate stability: Can buyers cancel contracts over regional conflict?